日向市キャリア教育支援センター ブログ

2025.12.08

待つことを楽しむ国民性(2)

   前回は、カナダ登山遠征に行くのにアメリカのシアトルで乗り継ぎ、そこで見聞きした体験で終わっていました。本日はその続きです。お付き合いください。

 シアトルからカナダのカルガリー空港へ乗り継ぎました。カルガリーといえば1988年の冬季オリンピックを思い出す方も多いのではないでしょうか。イタリアのカリスマスキーヤー、アルベルト・トンバ選手や今は参議院議員でJOCの会長となった日本の橋本聖子選手黒岩彰選手の活躍を思い出すします。

 カルガリー空港で予約していたレンタカーを皆で1台借りました。リーダーが海外での運転に慣れていたので安心ですが、好奇心も手伝って、私も予め国際免許証を出発前に取得しました。

 トラベルHPより

 カルガリーからハイウエイを通って約3時間でキャンモアという小さなリゾートの町に到着しました。その町にあるスイスのマッターホルンと同じようなピラミッド型の岩山があるのです。その山に登ったのですが、ここでお話したいのは登山終了後の町でのお話です。

 我々には悪天候に備えて予備日を設定していたので、下山後から後2日間、この町のロッジをベースに自分たちで過ごさなければなりません。つまり、ロッジは自炊なのです。それで皆で食材を買いに行くことになりました。ここでも異文化をたっぷり味わったのですが、その話は割愛して、車で街中を移動していた時のことです。

 その時は私が車を運転していました。何回か運転していたので少しは慣れてきました。ちょうど、住宅地にある交差点に差し掛かったときです。そうですね、日向で言えば比良エーコープ前交差点くらいの場所だったでしょう。(分かりますかね?) この交差点には信号はありませんでした。私たちの車は右折(日本と逆。基本的には確認のみで曲がってよい。)しようとしていたのでウィンカーを出し北進方向を向いて停止しました。すると、前方からも左右からも車が来て、その交差点で止まったのです。すると、そこへ一人のご婦人が私たちの車の前の横断歩道を右から左へ渡り始めました。私はじっとその様子を眺めていました。ほかの3方向の車もその様子を見ているようです。ご婦人はゆっくりのんびり、時には笑顔を見せながらずっと前方をうつむき加減の姿勢で渡り終えました。ご婦人は渡ってから車の方を見る様子はありません。

 さて次は交差点で止まっている私たちの車を含めて4方向から集まっている車が動き出す番です。ところが誰一人動きだす車はありません。私はフロントガラスへ身を乗り出して3方向3人のドライバーの様子を見ていると、前方の男性ドライバーが右手を前に出して水平直角にクイッ、クイッと指示します。つまり「お先にどうぞ」です。次に左右のドライバー2人を見ていると、これまたクイッ、クイッと「お先にどうぞ」をしています。私もその気になってクイッ、クイッとやります。結局そんなやりとりがしばらく続きました。ドライバーの顔の表情まで見えてきましたが笑顔です。ハンドルに両肘を乗せて「どうぞ~、どうぞ~お先に~」という感じで辺りの空気がゆったりとしています。前方、左右3人とも皆そうなのです。まるで、待つことを楽しんでいるかのようにも見えました。すでに5分近く待っているでしょうか。私の車内4人もそれを見ていて、せかす様子は起きないようです。私は好意に甘えてお先に右折させてもらいました。日本では考えられないほどのスローペースで右折しました。その後、3台の車はそれぞれ進んだようです。

 これは25年ほど前のカナダの小さな町(といっても交通量はそこそこある)での出来事でした。宿のアルパインロッジで日本人経営者と話し、「こちらに来て人生観が変わりました。」と言われた時、私は昼間にこの町で見た交差点での出来事と合致したのです。信号のない交差点で相手を先に送り出すおおらかな心と、自分のペースでのんびり歩く歩行者の行動。これはまさに大陸的なリラックス文化と、人優先が徹底しており横断歩道では急がず車にお礼を言う訳でもなく当然の権利が身についていることの姿勢なのかもしれないと思いました。その点では、島国日本とは異なる文化だと言えます。

日本で言えば、停止してくれた運転手に対する感謝と待たせることへの申し訳なさや、規範意識から、「急ぐのが当たり前」という機能が私たちには働くのかもしれません。ですから、美徳観で言えば、どちらの国にも意味はあると思います。また、日本人特に子どもたちが横断歩道を渡り終えた後にお礼の意味で会釈をするのも尊いと思います。では、先ほどの横断歩道の歩行に関しては何が違うかと考える時、「時間の使い方」があるのではないかと思います。また、大陸的なのか島国的なのかで変わるのかもしれません。「こんなに広いところをそんなに急いでどうするの。」か「狭いんだから急いだらすぐ着く。」か。必ずしもそうではないのでしょうが、ロッジの彼が言った「人生観が変わる」という時間の流れは、ロッキー山脈の麓で暮らすと確かにそうなるのかもしれません。

あれから25年が経ち、たまに現地アルパインクラブのHPを見るとその日本人は現在も頑張っておられるようです。あのカナディアンロッキーの麓の町で、今もゆったりとした時間の流れの中で暮らしておられるのでしょう。そんな暮らしの中では「待つことを楽しむ」ような姿勢が自然に身につくのかもしれません。タイパ、コスパと言われる現代の日本において「待つことを楽しむ」なんてできないのかもしれませんが、せめて「待つことは苦痛ではない」くらいの自分で在りたいと思います。

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